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運動療法

運動療法について

運動医者から「運動しましょう」と言われても、「運動って具体的に何をすればいいの?」「どのくらい歩けば効果があるの?」といった疑問を抱く方が多いです。また、「運動が必要なのはわかっているけれど、時間がない」「ダイエット目的で運動していると思われるのが嫌だ」「以前も運動を頑張ったけど長続きしなかった」といった、運動に対する否定的な意見もよく耳にします。
運動療法に関する提案や、その根拠となる情報を以下に示しますので、一度目を通してください。

運動療法のステップ(ウォーキング)

1運動療法を開始する前に

内科的疾患や、骨・筋・関節などの運動器を評価してもらいましょう。

2次に万歩計を用意しましょう

万歩計スマートフォンの歩数計でも構いません。

3日常の歩行数を確認し、さらに+1000歩ずつ増やしていき、1日8000歩を目標にしましょう

60分程度の歩行が8000歩程度ですが、時間よりも歩数を意識すると達成しやすいです。高齢者は6000歩を目標にしましょう。

4日常生活の家事や通勤も身体活動に含めましょう

座位時間を減らすことを意識し、日常生活の工夫で身体活動を増やしましょう。また、週末の趣味の時間も身体活動に含まれます。運動だけで身体活動の目標を達成しようとしないことが大切です。

5ストレッチを行い、可動域・柔軟性を保ちましょう

ストレッチ身体活動量の確保だけでなく、骨・筋・関節などの運動器の障害を予防することも重要です。バランス運動を取り入れると、さらに効果的です。

6筋力訓練は、自重やバンドを用いた簡単な方法で始めましょう

ストレッチを行った後に取り組むと良いでしょう。筋力訓練は週2日が目安です。

7積み重ねを大事にしましょう

運動を習慣化することは難しいですが、効果はすぐに現れません。
健康の維持・改善を目指すなど、運動を始めた目的や気持ちを大切にしましょう。

大事な3つ

  • ストレッチで怪我の予防をしよう
  • 1日8000歩を目標に
  • 筋トレは週2回を目標に

メディカルチェック(自費診療)

  • 「10代でも筋トレはしていいの?」(10代男性)
  • 「運動部に所属しているけど、最近疲労が強く、生理も来なくて心配…」(10代女性)
  • 「初めてマラソン大会に出ようと思うけど、家族から無理しないようにと言われて」(40歳男性)
  • 「糖尿病かもしれないと指摘されたけど、どんな運動をすればいい?」(50歳男性)
  • 「初めての入院を経験して、今後もリハビリが必要と言われたけれど、家で何をすればいいの?」(80歳女性)

年齢やライフステージによって、運動に関する悩みはさまざまです。
健康と運動は切り離せない関係にあります。健康とは、単に病気でないということではなく、肉体的・精神的・社会的に満たされた状態にあることを意味します。人生100年時代を迎え、健康的に過ごせる寿命を延ばすためには、個々の健康課題に対応できる健康づくりが重要です。
当院では、年齢やライフステージを考慮し、皆様が安全かつ効果的に活動や運動を行えるように、メディカルチェックという評価を提供しています。

検査例

  1.  血液検査:血算一般 生化学検査:AST、ALT、γGTP、LDH、ALP、アルブミン、尿酸、クレアチニン、尿素窒素、CPK、鉄、血糖、HbA1c、LDLコレステロール、HDLコレステロールなど
  2. 生化学検査:AST、ALT、γGTP、LDH、ALP、アルブミン、尿酸、クレアチニン、尿素窒素、CPK、鉄、血糖、HbA1c、LDLコレステロール、HDLコレステロールなど
  3. 尿検査:尿蛋白、尿潜血、尿糖
  4. 胸部X線写真
  5. 安静時心電図
  6. 体組成計検査
  7. 骨密度検査

※貧血の精査で網状赤血球、フェリチン、TIBCを追加
※甲状腺機能障害が疑われたTSH、FT4、FT3を追加

メディカルチェックはこちら

糖尿病の患者さんの運動療法

糖尿病ガイドライン 2019参考

運動1

運動療法を開始する前に、網膜症、腎症、神経障害などの合併症や、整形外科的疾患などを含む身体状態を把握し、運動制限の必要性を検討する。
心血管疾患のスクリーニングに関しては、一般的には無症状、かつ、行う運動が軽度~中強度の運動(速歩など日常生活活動の範囲内)であれば必要ないが、普段よりも高強度の運動を行う場合や、心血管疾患リスクの高い患者では、スクリーニングと、必要に応じて運動負荷試験などを考慮する。
1型糖尿病患者においても単回の適切な運動による血糖値は低下するが、長期的な血糖コントロールへの運動の効果については一定の見解は得られていない。

慢性腎臓病(CKD)の患者さんの運動療法

腎臓リハビリテーションガイドライン 2018参考

運動2運動療法の適応や禁忌や中止基準については、日本循環器学会が発行している「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン 2012年改訂版」の基準を適応している。

かつては慢性腎臓病(CKD)患者さんに対して「運動などの身体活動は控えるべき」とされていた時期がありました。運動時には筋肉や心臓に血液が配分されるため、腎臓への血流が低下し、短期的には蛋白尿が増加するとの指摘がありました。しかし、近年では運動療法による日常生活動作(ADL)や心血管機能の向上、精神的な効果などのメリットが重視されるようになり、「安定したCKD患者さん」に対しては運動療法が推奨されるようになっています。さらに、適切な強度の運動を長期的に行うことで、腎機能が悪化することなく、むしろ改善する腎保護効果があることも示されつつあります。これにより、運動療法は透析への移行を防止するための治療法の一つとなり得ます。
一方で、CKD患者さんの治療には食事療法が重要であり、特に蛋白制限が有効とされています。しかし、過度な蛋白制限やエネルギー摂取不足は「サルコペニア」を進行させ、筋肉量の低下を招くリスクがあります。CKD患者さんは運動療法と栄養療法を組み合わせることで、透析への移行を遅らせるとともに、透析に至った後も十分な筋肉量を保ち、社会生活を維持できるようにしていく必要があります。

高血圧の患者さんの運動療法

高血圧治療ガイドライン 2019参考

運動3安全性を考慮すると、高血圧症例における運動強度は中等度強度に留めるべきであるとされる。
高強度の運動は、高血圧症例では運動中の血圧上昇が顕著で、運動後も内因性昇圧系(交感神経系およびレニン-アンギオテンシン系)の活性化も生じ危険である。

脂質異常症の患者さんの運動療法

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022参考

運動④運動⑤コレステロールはエネルギー源として利用されないため、運動療法とともに他の生活習慣様式(特に食事)を自発的に改善し、血清脂質の改善に寄与している可能性がある。

学童期・青年期の方の運動

この時期の運動やスポーツは、心身の成長発達に欠かせないものであり、成人以降の運動習慣の基礎を築く重要な役割を果たします。近年、小児においては積極的に運動を行う子とそうでない子の二極化が進んでいます。安全に運動を行うためにも、健診で異常が指摘された場合は専門医を受診し、運動中に不調を感じた場合は事前に検査を行う必要があります。特別なメディカルチェックというよりも、成長過程で問題がないか、また、喘息やてんかんなどの基礎疾患のコントロールを行うことが重要です。

よくある問題点

心疾患

突然死のリスクがあるため、学校健診で心疾患や不整脈の可能性が指摘された場合は、専門医を受診し、運動管理区分を遵守することが必要です。

脱水症

小児は体重に占める水分量の割合が高いですが、高熱や嘔吐・下痢などの病気にかかりやすいことに加え、適切な水分補給が自分では難しかったり、近年の高温化も相まって脱水症のリスクが非常に高くなっています。水分と塩分の適切な摂取ができているか、また熱中症予防のための環境整備が整っているか確認しましょう。

栄養不足

  • エネルギー不足: 成長期には、消費するエネルギーに加えて発育のためのエネルギーも必要です。
  • 鉄不足: 運動によって鉄が消費されるため、鉄分が不足しがちになります。
  •  カルシウム不足: 骨の発育や骨折の予防にカルシウムは不可欠です。

思春期の問題

過度の運動により、生理不順や二次性徴の遅れが生じることがあります。過度な栄養制限がこれに関連している場合もあります。

整形外科的問題点

小児の運動器は発育過程にあり、大人のミニチュアと考えてはいけません。骨には軟骨成分が多く、骨が成長しきっていない(骨端線が閉じていない)段階で筋肉や腱に負荷をかけると、骨の付着部で損傷を引き起こす恐れがあります。また、過度の運動や不適切な運動方法によってスポーツ障害を引き起こすリスクも高まります。一方、運動不足による肥満や筋力・バランス能力の低下が体力テストで指摘されています。側弯症があったり、しゃがみ込みができないなどの運動器の異常がある場合は、整形外科の受診を検討する必要があります。
運動⑥

働き世代の方の運動

加齢に伴い筋量の低下が進みますが、働き世代である40代からの筋量低下も顕著です。さらに、社会の変化により、交通機関の発達で歩行時間が減り、IT革命によりパソコンに向かう座位時間が増え、長時間労働などの多忙さから「運動する時間や習慣がない」人が増えています。加えて、コロナ禍では、平日は在宅勤務、休日は外出を控えるという「動かない生活に慣れた」人も増えました。
一方で、「このままではいけない、運動を始めよう」と思い立ったり、「体重が増えて生活習慣病になってしまった」と危機感を抱く方も増えています。
生活習慣が乱れていると感じる方は、安全に運動を始め、継続するためにメディカルチェックを受けることをお勧めします。

生活習慣病がある方の運動

疾患の予防効果

糖尿病、動脈硬化、慢性腎臓病、心不全などをお持ちの方に対して、適切な運動を一概にお示しすることは難しいです。運動によって心血管イベントや運動障害が引き起こされるリスクは人それぞれ異なり、運動療法の内容も個別に調整する必要があります。また、複数の疾患を抱えている場合も多く、その場合は栄養と同様にバランスを考えた運動が重要です。
基礎疾患に合わせたメディカルチェックを行うことが必要です。

運動療法の効果

肥満症

運動療法は減量に対して高い効果が示されています。また、肥満の予防効果も確認されています。

動脈硬化症

体重が減少するほど、脂質代謝が改善されることが示されています。

高血圧

体重の減少が収縮期・拡張期の血圧を低下させる効果が確認されています。

糖尿病

身体活動量が高いほど、糖尿病の発症リスクが低くなることが明らかになっています。また、運動はインスリン抵抗性を改善し、血糖値を下げる作用があります。しかし、糖尿病患者にとっては、運動に伴う低血糖のリスクが注意点です。動悸、冷汗、意識がもうろうとする場合は低血糖の可能性があります。特に食前の運動は、血糖値が低下している状態でさらに低下させる恐れがあるため、基本的には食後1時間後に開始するようにしましょう。

ご高齢者の方の運動

健康寿命(心身ともに自立し、健康的に生活できる期間)と平均寿命との差は約10年あるといわれています。平均寿命が延びるにつれ、この差が拡大すると、健康上の問題だけでなく、医療・介護費の増加による経済的な負担や、介護する側とされる側の心理的負担も懸念されます。
「ぴんぴんころり」という言葉があるように、人生の最後まで元気に生活を送ることができるように、寿命を延ばすだけでなく、健康的に生活できる期間を延ばすことが課題とされています。
近年、「ロコモティブシンドローム」「フレイル」「サルコペニア」という言葉が話題になっています。これらは互いに関連しており、特に高齢者にとって重要な健康問題です。

ロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドロームとは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」を示します。

フレイル

フレイルとは、英語の「Frailty」が語源で、「高齢期にストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態などの転帰に陥りやすい状態」を示します。

サルコペニア

サルコペニアとは、ギリシャ語で筋肉を表す「sarix」と消失を表す「penia」を組み合わせた言葉で、「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を示します。
メディカルチェック_ロコモ図健康寿命を延ばすためには、サルコペニアやフレイルを予防・改善し、ロコモティブシンドロームの進行を防ぐことが重要です。さらに、骨粗鬆症や変形性膝関節症などの運動器の問題に加え、現在抱えている内科的疾患の状態に応じた運動を行う必要があります。これを達成するためには、定期検査に加えて、運動がリスクとなる可能性のある病態や疾患の検出、および運動の許容レベルを確認するためにメディカルチェックを受けることが推奨されます。

心疾患のある方の運動

心筋梗塞後や心不全などの循環器疾患に対する心臓リハビリテーション(心リハ)は、心疾患の再発や再入院の予防に効果があることが示されています。心疾患を発症し、入院中にリハビリを行った後も、退院後や社会復帰後に心リハを継続することが重要です。
運動は心拍や心臓の血流に影響を与えるため、心疾患を抱える方は不整脈などのリスクを十分に評価し、どの程度の負荷が許容されるかを判断した上で、監視下での運動療法が推奨されます。リスクが低い場合には、非監視下でのリハビリが許容されることもあります。適切な運動強度や時間を自己管理できるようにすることが必要です。

運動強度について

メディカルチェック_運動強度厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準2013 より
「メッツ METs:metabolic equivalents」という単位は、酸素摂取量を基に数値化したものです。座って安静にしている状態が1メッツ(3.5ml/min/kg)とされ、普通歩行が3メッツに相当し、このように身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するか表すことができます。
消費カロリー(kcal)=1.05×運動量(メッツ×時間)×体重(㎏)で計算することができます。
個人個人の病態に合わせた運動強度の運動をしましょう。

運動療法を制限したほうがいい場合

血糖コントロールが極端に悪い場合

尿のケトンが出ていたり、血糖値が極端に高い場合は、運動によるホルモン上昇でさらに血糖が上昇する場合があります。逆に運動後に運動誘発性の低血糖が生じる場合があります。

活動性の網膜症がある場合

激しい運動や息ごらえ、頭の位置を下げる運動などは眼圧を上げる可能性があり控える必要があります。

心臓疾患がある場合

糖尿病の患者様の中にはときどき、心疾患が無症状に進行していることがあります。虚血性の心疾患を誘発する可能性が高くないか運動療法を開始する前に検査をすることが推奨されます。

下肢閉塞性動脈硬化症がある場合

長距離の歩行や長時間の運動で下肢痛が誘発される可能性があります。強度の調整が必要です。

骨関節疾患がある場合

水中歩行など関節に負荷がかからないような運動、腰痛がある場合は腰痛体操などが推奨されます。

急性の感染症がある場合

治るまで安静にしましょう。

足壊疽がある場合

傷口からの感染拡大には注意して、しっかり保護をするようにしましょう。座ったり、免荷ができる姿勢で行いましょう。

高度な自律神経障害がある場合

運動前後で血圧が乱高下したり、無症状に低血糖をきたす可能性があります。