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生活習慣病
(高血圧、脂質異常症、高尿酸、メタボリックシンドローム、肥満症)

生活習慣病について

生活習慣病とは、私たちの日常の生活習慣の乱れが原因で発症する病気です。不規則な食事、運動不足、喫煙、過剰なストレス、そして過度のアルコール摂取などが主な要因となります。これらの生活習慣が続くことで、体に大きな負担がかかり、次第に病気を引き起こします。生活習慣病の予防や管理には、健康的な生活を維持し、適切な医療によるサポートが欠かせません。

代表的な生活習慣病

生活習慣病として一般的に知られているのは、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)、肥満、そして動脈硬化などです。これらの病気は、単独で進行することもありますが、しばしば合併しやすく、相乗的に悪影響を及ぼします。たとえば、高血圧があると動脈硬化が進みやすくなり、心臓や脳の血管に負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まることがあります。生活習慣病を早期に発見し、適切に管理することが、健康を保つために重要です。

日本人の生活習慣の変化

日本では、食生活や生活リズムが大きく変わってきています。特に、戦後の食事の欧米化やファストフードの普及により、脂質や塩分の多い食事が増え、野菜や果物の摂取が減少しています。また、都市化に伴い、車社会が進んだことやデジタル機器の普及によって、日常の運動量が減少している傾向があります。こうした生活の変化が、生活習慣病の増加につながっています。

近年の生活習慣の特徴

近年では、特に若い世代から中高年にかけて、ストレスの増加や運動不足が目立ちます。仕事や家庭の忙しさから、規則正しい食生活や十分な運動が難しいという人も多く、また、喫煙や過度のアルコール摂取が健康に与える影響も無視できません。加えて、インターネットやスマートフォンの普及により、睡眠不足や不規則な生活リズムも広がっており、これらが生活習慣病の発症に寄与しています。

生活習慣病の治療と管理の原則

生活習慣病の治療には、まず生活習慣を見直すことが基本となります。具体的には、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、節度のある飲酒、そしてストレス管理が重要です。これに加え、医師による定期的な検査や、薬物療法が必要になる場合もあります。自己管理の協力が、生活習慣病の進行を防ぎ、健康を保つための鍵となります。
生活習慣病は、自分の生活の中で改善できる点を見つけ、少しずつでも変えていくことで予防や進行を防ぐことが可能です。まずは自分の生活を振り返り、できることから取り組むことが健康への第一歩です。

高血圧症

高血圧とは

血圧イメージ血圧とは、心臓が収縮と拡張を繰り返すことで血液が血管を押し広げる際の圧力を指します。血圧の値は、心臓から送り出される血液の量や血管の柔軟性によって決まります。年齢を重ねたり生活習慣病が進行したりすると、動脈が硬くなり、血管が収縮時に十分に広がらなくなるため、収縮期血圧(上の血圧)が上昇しやすくなります。
高血圧は、日常生活でよく耳にする疾患の一つです。日本では、40歳から74歳の2人に1人が高血圧とされており、約4,300万人がこの状態に該当します。高血圧を適切に管理することで、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管病のリスクを抑制できることが期待されています。しかし、この4,300万人のうち、実際に適切に血圧が管理されているのは約1,200万人であり、70%以上の患者が十分な降圧を達成できていない状況です。

血圧

目標血圧について

高血圧の治療は、心筋梗塞や脳卒中などの脳心血管病の発症や腎機能の悪化を予防するために行います。一般的な治療目標として、75歳未満の方は診察室血圧で130/80 mmHg未満、75歳以上の方は140/90 mmHg未満を目指します。合併症の有無や高血圧の状態によって、適切な降圧のスピードには違いがあります。また、血圧が下がりすぎると、治療のメリットよりも副作用のデメリットが大きくなる場合があります。

血圧には日内変動(起床後の血圧上昇、夜間の低下)や季節変動(夏季は血圧が下がりやすく、冬季は上昇しやすい)が存在します。特に夏季は高温のために水分や塩分が失われやすく、血管が拡張し、血管抵抗が低下することで血圧が低下しやすくなります。夏バテで食欲が減退し、ふらつきやめまいがある場合は、血圧が下がりすぎている可能性があります。血圧を確認しましょう。

高血圧の原因

高血圧は、原因を特定できない本態性高血圧と、明確な原因がある二次性高血圧に分けられます。日本人の高血圧の約8~9割は本態性高血圧で、体質や過剰な塩分摂取、肥満などの要因が組み合わさって発症します。このタイプの高血圧は多くが中年以降に見られ、特に親が高血圧の場合に起こりやすいとされています。一方、二次性高血圧は本態性高血圧と比較して若年層に多くみられ、原因の精査が必要となります。
●画像(高血圧_原因)

高血圧の治療

薬物治療の前に、まずは生活習慣で改善できる点があれば、それを優先して改善を目指しましょう。また、治療効果を評価するためにも、日常的に血圧を測定する習慣をつけましょう。

肥満の是正

肥満は高血圧だけでなく、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、脂肪肝、腎障害など、さまざまな病気の原因となります。個人差はありますが、3~4kgの減量で降圧効果が期待できるとされています。体格指数(BMI)が高い方は、まずはBMI=25を目標にしましょう。

食事療法

食塩摂取量を6g/日未満に抑えましょう。日本人は食塩の摂取量が多く、減塩による降圧効果が大きいです。
節酒を心がけましょう。アルコール摂取量の目安は、男性で20~30mL/日以下、女性で10~20mL/日以下です。これはおおよそ、日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウイスキー・ブランデーのダブル1杯、ワイン2杯に相当します。
野菜や果物、魚に多く含まれる多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取し、飽和脂肪酸やコレステロールを避けるようにしましょう。

運動療法

まずは散歩などの軽い運動を習慣にしましょう。血圧の程度によって適切な運動強度が異なるため、積極的な運動を始める際は事前に相談しましょう。

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薬物治療

生活習慣の改善、食事療法や運動療法を行っても血圧が目標値まで下がらない場合は、薬物治療が必要です。血圧を下げる薬にはいくつかの種類があり、合併症や血圧の程度、病態に応じて選択されます。服薬を忘れないようにし、血圧が下がりすぎたり、副作用が現れたりした場合は、必ず相談しましょう。また、薬を服用していても、生活習慣の改善を怠らないようにしましょう。

脂質異常症

脂質異常症とは

脂質異常症は、血液中のLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)などの脂質が過剰に増えたり、HDL(善玉)コレステロールが減少する病気です。

脂質異常症の原因

脂質異常症は、食事から摂取する脂質が過剰になったり、体内で脂質が正常に処理されなくなったりすることが原因です。摂取した脂質は、体内で細胞膜やホルモンの材料、エネルギー源へと変換されます。しかし、LDLやHDLといったコレステロールや中性脂肪が基準値を超えた状態が続くと、血液中に脂質が蓄積されてしまいます。特にLDLは血管の壁に入り込みやすく、「プラーク」と呼ばれるこぶが血管内に形成されます。
プラークが大きく成長すると、血管内が狭窄し、ホースの出口を狭めると水の勢いが強くなるのと同じように、血流の勢いが増して血圧が上がります。血圧が上昇すると血管に負担がかかり、柔らかかった血管が硬くなり、動脈硬化へと進行します。成長したプラークの膜が破れると、血栓が形成されます。血栓によって血管が塞がれると、頭部では脳梗塞、心臓では心筋梗塞などの命に関わる病気を引き起こします。

●画像(脂質異常症_動脈硬化)

画像(脂質異常症_診断基準)

脂質異常症の治療

 食事療法

  • 適切なエネルギー摂取: 健康的な体重を達成するために、適切なエネルギー摂取が必要です。
  • 糖質とアルコールの制限: 中性脂肪を増加させる原因となる過剰な糖質やアルコールの摂取を控えましょう。特に、果物やお菓子の過度な間食を制限し、週に2回以上の休肝日を設けることが推奨されます。
  • コレステロールの制限: コレステロールが多く含まれる食品(卵黄、レバー、ベーコン、たらこなど)の摂取量を制限しましょう。
  • 食物繊維の摂取: 脂質の吸収を抑える効果のある食物繊維を多く含む食品(いも、豆類、野菜、きのこ、海藻類など)を積極的に摂取しましょう。
  • 抗酸化ビタミンの摂取: 身体の酸化を防ぐため、ビタミンA、C、Eを多く含む食品(緑黄色野菜、植物油など)を摂取しましょう。
  • 大豆製品と青魚の摂取: コレステロールや中性脂肪を低下させる効果のある大豆製品(大豆、納豆、豆腐など)や青魚(いわし、さんま、さばなど)を食事に取り入れましょう。

運動療法

中性脂肪や悪玉コレステロールの低下に効果的な有酸素運動(ウォーキング、水泳、サイクリングなど)を週に3回以上、1回30分以上行い、これを3ヶ月間続けると効果が期待されます。合併症によって運動の強度が異なるため、積極的な運動を始める際は事前に相談しましょう。

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薬物療法

食事療法と運動療法が十分な効果を示さない場合、薬物療法が考慮されます。

脂質異常症

高尿酸血症

高尿酸血症(痛風)とは

痛風食生活の欧米化に伴い、高尿酸血症や痛風の患者が近年増加しています。
尿酸は、体の細胞や組織の代謝過程で生じるほか、食事に含まれるプリン体の代謝産物でもあります。通常、健康な体では尿酸濃度が適切に維持され、主に尿として排泄されます。しかし、体内で尿酸のバランスが崩れると、高尿酸血症と呼ばれる状態が生じることがあります。高尿酸血症は、血液中の尿酸濃度が高い状態を指し、これが過剰に蓄積すると、痛風や尿路結石などの原因となることがあります。


●画像(高尿酸血症の診断基準)

高尿酸血症の原因

遺伝的要因

遺伝的な傾向により、一部の人々は尿酸を過剰に生産しやすく、高尿酸血症になりやすい傾向があります。家族に高尿酸血症のほか、腎不全や透析治療が必要な方がいる場合、遺伝性疾患である常染色体優性尿細管間質性腎疾患の可能性があり、精密検査が必要な場合があります。

食事

高プリン食品(肉、魚、ビールなど)を過剰に摂取することで、高尿酸血症のリスクが上昇します。

腎機能の問題

腎臓が尿酸をうまく排泄できない場合、高尿酸血症のリスクが上昇します。

痛風発作

痛風発作について

痛風発作は、突然の激しい痛みと腫れが特徴です。特に夜間や早朝に起こることが多く、強い苦痛を伴います。最も典型的な症状は、足の親指の付け根(第一中足趾関節)に発生し、この部分が急に赤く腫れ、熱を持ちます。少し触れただけでも耐え難い痛みを感じるため、歩行や足を動かすことが難しくなります。痛みは数日から1週間ほど続きますが、自然に治まることもあります。しかし、治療を受けずに放置すると、再発や症状の頻度が増すだけでなく、関節が慢性的に損傷する危険性もあります。
痛風の原因は、体内に尿酸が過剰に蓄積され、結晶化して関節に沈着することです。足の親指だけでなく、足首、膝、手首、肘など他の関節にも痛みが広がることがあります。発作を繰り返すことで、関節の健康が損なわれるため、早めに医師の診断を受けることが非常に重要です。治療や生活習慣の改善によって、痛風の再発や合併症を防ぐことができます。

尿酸値と痛風発作の関係

痛風発作は、必ずしも尿酸値が高いときにだけ起こるわけではありません。尿酸値が正常範囲内であっても、急激な変動によって発作が発生することがあります。尿酸値が急に上がったり、逆に急激に下がったりすると、関節内に蓄積された尿酸結晶が不安定になり、これが痛風発作を引き起こす原因となります。
発作が起きている間に尿酸値を急激に下げることは、かえって症状を悪化させることがあります。尿酸値を下げる治療は、発作が収まってから開始するのが一般的です。発作中はまず痛みや炎症を抑える治療を優先し、その後に尿酸値の安定したコントロールを行います。

痛風発作の予防

痛風発作を防ぐためには、日常的に尿酸値を安定させることが重要です。急激な尿酸値の変動を避けるため、生活習慣の改善や食事の管理が鍵となります。医師との定期的な相談を通じて、適切な治療計画を立てることが推奨されます。痛風の兆候が見られたら、早めに対策を講じることで、将来的な合併症や慢性的な関節障害を防ぐことができます。

高尿酸血症の治療

生活スタイルの変更

まずは食事の見直しが重要です。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」では、1日400mgを目安としたプリン体の摂取制限が推奨されています。高プリン食品の摂取を制限し、健康的な食事を心がけましょう。また、適度な運動や体重管理も尿酸濃度のコントロールに役立ちます。

薬物療法

尿酸の排泄を促進したり、尿酸の生成を抑えたりすることで血中の尿酸値を下げる尿酸降下薬が、高尿酸血症の管理に使用されます。これにより、高かった尿酸値が下がります。しかし、この急激な尿酸値の変化が、好中球の尿酸結晶への攻撃を促し、一時的に痛風の発作を引き起こす可能性があります。ここで大切なのは、尿酸降下薬を自己判断で中止しないことです。尿酸降下薬は、尿酸値を長期的に安定させ、将来的な痛風発作や合併症のリスクを予防するために非常に重要です。発作が起きた場合は、必ず医師に相談しましょう。

慢性腎臓病の管理

尿酸は主に腎臓から尿中に排泄されますが、腎機能が低下していると、尿酸がうまく排泄されず、血中の尿酸値が高くなります。また、尿酸値が高いと腎機能がさらに悪化する傾向も指摘されています。つまり、尿酸値が高いと診断された人や、腎機能が低下していると言われた人は、両方に注意を払う必要があります。

メタボリックシンドローム・肥満症

肥満症とは

肥満症とは、体内に脂肪組織が過剰に蓄積した状態を指します。肥満は単なる体重の増加にとどまらず、健康にさまざまな影響を及ぼす病態です。
画像(肥満症_診断基準)

肥満症の診断基準に定められる健康障害

  • 耐糖能障害
  • 脂質異常症
  • 高血圧症
  • 高尿酸血症
  • 冠動脈疾患
  • 脳梗塞
  • 脂肪肝
  • 月経異常
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 運動器疾患
  • 肥満関連腎症 など

肥満指数(BMI)と標準体重について

肥満の中には、何らかの病気が原因で引き起こされる場合があり、これを「二次性肥満」と呼びます。また、肥満症の中でもBMIが35以上の場合は「高度肥満症」と定義されます。

BMIの計算式: BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

適正体重の計算式: 適正体重=身長(m)²×22


ここで22という数字は、BMIの中央値(24を少し下回る)を基にしています。
標準体重は、身長に対して適正とされる体重の範囲を示します。BMIを使って計算することができ、標準体重の目安はBMIが18.5から24.9の範囲に収まる体重です。この範囲に収まる体重が健康的とされていますが、個人の体型や筋肉量、体脂肪の分布なども考慮する必要があります。
また、BMIは成人において国際的な指標として用いられていますが、子供には年齢や性別に応じた別の指標が存在します。
BMIと内臓脂肪は必ずしも相関しないため、BMIはメタボリックシンドロームの基準には含まれていませんが、メタボリックシンドロームの予備軍を把握するために特定検診の基準には含まれています。

メタボリックシンドロームとは

メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満を基盤とし、脂質代謝異常・高血圧・高血糖のうち2つ以上が合併した状態を指します。メタボリックシンドロームの診断では、肥満症で用いられるBMIではなく、動脈硬化のリスクを高める内臓脂肪の蓄積があることが条件となります。つまり、必ずしも「太っている人」が「メタボ」に該当するわけではなく、動脈硬化に焦点を当てていることが重要です。
メタボリックシンドロームの患者数は増加傾向にあります。これは、不健康な食事や運動不足が主な原因です。肥満率の上昇や生活スタイルの変化が影響し、心血管疾患や糖尿病のリスクを高めています。予防策としては、バランスの取れた食事、運動、ストレス管理が重要であり、社会全体で健康促進に取り組む必要があります。

メタボリックシンドロームの診断基準

●画像(メタボ_診断基準)

※海外では異なる基準を用いている点に注意が必要です。
糖尿病や高血圧症の基準までは満たさないものの、「血糖値が少し高め」「血圧が少し高め」などそれぞれが複数高い状態であるといえます。
つまり病気とは診断されていない予備群の段階から健康に留意する必要がある状態です。予備軍の段階であり、自覚症状がない方が多いです。内臓脂肪の蓄積が病態の根本です。

肥満症・メタボリックシンドロームの治療

肥満症の治療

肥満症の治療は個別化され、短期的な減量にとらわれず、長期的な健康を目標とすることが重要です。

食事改善

バランスの取れた食事を摂り、カロリー摂取を制限することが肥満管理において重要です。

運動

運動は不可欠であり、有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせが効果的です。

行動療法

心理的な要因も肥満に関与することがあるため、行動療法を受けることで食事や運動の習慣を改善できます。

 薬物療法

一部の患者には、肥満治療のための薬物が適している場合があります。医療用ダイエット薬の使用には注意が必要です。

 手術

2014年4月から、腹腔鏡下スリーブ状(袖状)胃切除術が保険適用となりました。ただし、適応はBMI 35 kg/m²以上で、6ヵ月以上の内科的治療を行ったにもかかわらず、有意な体重減少および肥満に伴う合併症の改善が認められない場合に限られます。

メタボリックシンドロームの治療

メタボリックシンドロームの治療は、内臓脂肪を軽減し、それに伴う代謝異常の改善を目指します。治療の基本は肥満症と同様で、食事療法と運動療法が主体となります。有酸素運動は内臓脂肪の減少に有効であり、継続しやすい散歩などがお勧めです。薬物療法が必要となる場合もありますが、その場合は、すでにメタボリックシンドロームの範疇を超えた病態といえるでしょう。

医療用ダイエット薬の注意

近年、ダイエット目的で「やせ薬」として、本来は保険診療で使用される薬が自由診療領域で「適応外」処方されるケースが見られます。
医療用ダイエット薬として使用される「GLP-1受容体作動薬」は、2型糖尿病患者さんを対象に、血糖改善や減量効果を期待して処方される薬剤です。この薬は、糖尿病治療に加え、心血管疾患や慢性腎臓病を持つ患者さんにも、心血管イベントや腎イベントの抑制効果が示されており、糖尿病合併症の発症・進行を抑えることが期待されています。
食事を摂ると小腸からインスリンの分泌を促すホルモンであるGLP-1が分泌されます。GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1の作用を維持し、体内で分解されにくくすることで、血糖値の安定化を図ります。また、摂取した食べ物の胃内停滞時間を延ばし、食欲を抑制する効果もあり、結果として体重減少が見られることがあります。ただし、食欲低下などの効果は薬の作用とされる一方で、嘔気・吐き気・下痢などの胃腸症状が強い場合は脱水症状を引き起こし、副作用となる可能性があります。また、GLP-1受容体作動薬単独では低血糖は起こりにくいとされていますが、他の薬と併用することで低血糖が生じることもあります。
次に、医療用ダイエット薬として使用される「SGLT2阻害薬」についてです。この薬は、主に2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病の患者さんを対象に、血糖降下や心臓および腎臓の保護効果を期待して処方されるものです。SGLT2阻害薬は、尿細管内から血管内へ糖を運ぶ役割をするSGLT2を阻害することで、尿中に糖を排泄し、結果として血糖値を下げます。また、尿細管での糖の再吸収が阻害されると同時に水分の吸収も抑えられるため、尿量が増加し、一時的に体重が減少することがあります。このような水分調整を介した効果などにより、慢性心不全の治療にも有効ですが、副作用として脱水症状を引き起こすリスクがあります。さらに、尿中に糖が排泄されるため、尿路感染症にかかりやすくなる副作用もあります。
薬の使用後に何らかの体調不良が現れた場合、それが副作用である可能性があります。副作用の判断や、薬の使用を控えるべきかの判断、そもそも投与を許可していいかは、薬剤に精通した専門医によるべきです。
加えて、GLP-1受容体作動薬については、2024年時点で世界的に供給不足が生じています。糖尿病患者さんの増加、さらに治療の有効性や心臓・腎臓への保護効果が認められ、需要が高まっています。そのため、ダイエット目的での処方が増えると、本来GLP-1受容体作動薬を必要とする患者さんに薬が行き渡らなくなる懸念があります。